何時からか、十六夜が自分以外の者と笑顔でいるのを見ると形容しにくい、
モヤモヤとした嫌な気持ちになるようになっていた。
もちろん十六夜の泣いている顔は見たくないし、いつでも笑っていて欲しいのだが
他人と笑っている十六夜を見ると、不愉快な気分になるのは抑えられなかった。
「ジェンドー、カイの用事ってなんだろ?」
「さあな、とにかく今晩は帰らないと言ってたな」
夕食後、カイは所用が出来たと言い残して出かけ、それから2時間あまりが経ち
そろそろ毎日の就寝時間が近づいてきていた。
「ねえねえ、ジェンド一緒に寝よー」
いつもはカイと寝ている十六夜だが今日はカイがいないので寂しいのか、自分に声をかけてくる。それがなんとなく面白くないが、何が不満なのか自分でもよくわからない。
「ああ、いいぞ」
「わーい♪ジェンド好きー」
その十六夜の言葉が今日だけは何故か無視できなかった。
「お前はカイや、いままで会った奴らの事も好きなんだろ?」
「みんな好きだよ、ジェンド、カイ、闇の王サマ、トゥミス、ディノ、ネミーゼ…」
その言葉で自分の中で形の無かった何かが形になり、何かが切れる。
「うるさい!」

奇妙な熱に浮かされた感覚、気がつくと十六夜の目の前に立っていた。
「にょ?ジェンドどうしたの?大丈夫?」
心配そうに此方を見る十六夜を力任せに押し倒し、動きを封じる。
「私の中にはお前しかいない」
熱病にかかった頭で言葉を続ける。
「お前の中にも私だけが居ればいい」
逃げられないように十六夜の頭を抑え、有無を言わせず唇を奪う。
舌を強引にねじ入れ、口腔をなぞり、舌を絡め、口の中を蹂躙する。
十六夜の唇の感触が、絡めた舌が、混ざる唾液が、全てが甘く脳を焦がしていく
それに酔いながら、それだけを求めて、ひたすら貪欲に十六夜を貪る。
どれだけの時間そうしていただろうか
息苦しくなり十六夜を離すと、肺が急速に酸素を求めて運動し、咳き込む。
自分でさえ息が続かないくらいの長い時間だ、十六夜にはさらに苦しかったのだろう
大きく咳き込み、その目には涙が浮かんでいる。
その苦しそうな顔さえ、自分だけのものにしたいと思う。
軽く息を整え、まだ咳き込んでいる十六夜を抱き寄せると、再び無理矢理口を塞ぐ。
突然、十六夜の目からこぼれた涙が自分の頬を伝っている事に気づく。

一瞬で熱病が冷め、頭が現実を認識する。
「私は…」
さっきまでの行為を思い出す。頭がグラグラと揺れる。
「…ジェンド?泣いてるの?」
狂ってはいなかった。間違いなく全て自分の本心だった。
「泣かないで、ジェンドが泣くと僕も悲しいの」
そして何より、十六夜を傷つけた。
「ジェンド」
ふわっとした感触に包まれ、思考が打ち切られる。
いつの間にか床に座り込んでいた自分を、十六夜が抱きしめていた。
「ジェンド、凄くぐるぐるふらふらしてるの」
「十六夜…」
「大丈夫だよ、僕はずっとジェンドのそばにいるよ」
いつもと変わらない暖かい十六夜の声が聞こえる。
そして、初めて自分がずっと涙を流し続けていたことに気づいた。
「…何故だ?私はまたお前を傷つけるぞ」
「にょっ?僕、怪我してないヨ?」

「バカ、心だ」
「さっき息は苦しかったけど、ジェンドの凄くどきどきのココロ感じて僕もどきどき
したの。あんなにつよくまっすぐでキモチぶつけてくれるジェンド好きだよ」
十六夜の言葉と伝わってくる体温のせいか、いつの間にか涙は止まっていた。
「…あいかわらず、お前の話はさっぱりわからん」
「ふにー」
十六夜の困ったような声を聞きながら涙の跡を拭い、
自分を抱きしめている手を解かせ、立ち上がりながら口を開く。
「ただ、私を好きだと言ってくれるのは、その…嬉しい」
「うん!僕ジェンド好きー♪」
立ち上がる途中に思い切り抱きつかれ、バランスを崩し再び床に座り込む格好になる。
どける気にもなれず、胸元に抱きついている十六夜の髪を撫でていると、
なんとなく十六夜に抱いている自分の感情がどういうものか判ったような気がした。

「十六夜……キスしても、いいか?」
「うん」
顔を上げた十六夜に優しく唇を重ね、目を閉じる。
「……ん…」
体を離し、目を開くと何時もの無垢な笑顔の十六夜がそこに居た。
その笑顔を見た瞬間かぁと頭に血が上り頬が熱くなる。
「いっ…十六夜っ!もう夜遅いし寝るゾ!」
「うん!ジェンド一緒に寝よー」
「え、あ…う」
一緒に寝ると判っていた筈だが、何故かさらに頬が熱くなり思考がまとまらない。
そんな此方の様子を不安に思ったのか、十六夜は悲しそうな顔になる。
「ふに…ジェンド僕と一緒イヤ?」
「い、いっ嫌なわけ無いだろう大バカ太郎!!」
頭全体が茹で上がったような熱さを振り切るように言って、ベッドに潜り込む。
「えへへー」
笑いながら十六夜はすぐに隣に潜り込んでくる。
「ジェンド、大好きだよ」
「…私もだ」